包んで食べる!世界の餃子これも餃子?形を変えて愛される世界の餃子。

日本で餃子といえば定番は焼き餃子。
カリッと焼いた面を上にお皿に盛りつけられた餃子を
思い浮かべる人も多いはず。
中国では焼き餃子は“日式餃子”(日本式の餃子)と呼ばれ、
茹でて食べる水餃子が一般的。
近年日本でも台湾料理店の人気の水餃子が話題にのぼることも増えましたし、
広東料理の点心の蒸籠に入った透きとおった蒸し餃子も魅力的です。
実は日本に餃子を伝えた中国の他にも、
さまざまな餡を小麦粉でつくった皮で包む“餃子的料理”は
下の世界地図にあるように世界各地で食べられています。

お隣の韓国の「マンドゥ」(もちろんキムチ入り)やシベリアの「ブーザ」(響きがギョーザに近い)から、帽子型のロシアの「ペリメニ」にインドの揚げ餃子「サモサ」、ヨーグルトを使ったパレスチナのスープ餃子「シシュバラク」や中華食堂のワンタンスープのようなイスラエルの「デュシュペラ」(地図に載せきれませんでした)、イタリアのラビオリを経て、大西洋を越えた南米のスペイン語圏の国々の「エンパナーダ」やブラジルの揚げ餃子「パステウ」まで、庶民的な料理として多くの人々に愛されています。こうした地域の特徴を生かした多種多様な“餃子的料理”の一員として、東京ヴィーガン餃子も東京から日本、そして世界で愛される餃子を目指しています。


餃子の故事と科学的起源


漢方の名医が人助けのためにつくった料理

中国で最初に餃子をつくったと言われているのは漢方の創始者とされる名医、張仲景(張機)です。後漢時代に荊州南陽郡に生まれ医術を学んだ張は、傷寒という流行りの疫病で多くの人々の死と向き合い、その経験を元に『傷寒雑病論』という中国医学の原典を記しました。そんな張が、郷里の貧しい暮らしで耳の凍傷が癒えない人たちのためにつくった「寒膠耳湯」が、中国で初めてつくられた餃子(スープ餃子)だったと言い伝えられています。今日まで中国で続く旧正月に家族で餃子を食べるという習慣も、この故事にちなんだものとされています。
実際に餃子がいつからつくられ、食べられるようになったのかはよくわかっていませんが、中国では新疆ウィグル自治区で発掘された唐代の敦煌の遺跡から乾燥した餃子が出土しています。二つ折りをひだでまとめた半円形という、いまの餃子と同じような形状の特徴をよく備えていて、まさに“餃子のミイラ”です。この中国の餃子がモンゴル帝国の拡大とともにユーラシア大陸に広がったとされますが、古代メソポタミア文明の遺跡で小麦粉の皮に具を包んだような食べ物が発見されていて、中東地域からシルクロードを経由して中国に広がったとする考えもあります。餃子の起源はまだまだ多くの謎に包まれていますが、世界がコロナ禍を経験している現在、傷寒というパンデミックに立ち向かった医聖、張仲景が考案したものだったという故事の中に、餃子という料理がこれからの世界で果たす使命が、文化的遺伝子として埋め込まれているのではないかと思わずにはいられません。

新疆・ウィグル自治区の唐代の遺跡から出土した
乾燥した餃子(下)と雲呑(上)(『新疆出土文物』より)



日本の文献に初めて餃子が登場するのはいつ?


日本の餃子の始まり

中国から日本に餃子がいつ、どのように伝えられたのかついても諸説がありますが、日本式の焼き餃子が広まったのは、第二次世界大戦後に中国からの引き揚げ者が、日本各地で紹介し始めたためと言われています。餃子のまちとして名高い宇都宮市には大日本帝国陸軍の第14師団が市内に駐屯していたため、中国への出兵を通じて餃子を知り、引き揚げ後に広まったそうです。宇都宮市以外では、横浜市の野毛にある萬里が戦後の早い時期から餃子を提供していたことが知られています。日本の文献に餃子の文字が登場するのは意外と古く、江戸時代の1707〜1708年(宝永4〜5年)にかけて刊行された『朱氏談綺』(別名『舜水朱氏談綺』に、餃子という文字とその調理法(中にいろいろな餡を入れ蒸したものであること)が記されています。1778年(安永7年)に刊行された料理本『卓子調烹法』には、揚げ、焼き、蒸しの3つの調理法とともに餃子が紹介されていました。


『朱氏談綺』は日本に亡命した明の儒学者である朱舜水と弟子との問答をまとめたものです。
徳川光圀が江戸に招聘し、光圀をはじめ多くの学者たちと交流しました。
誰もが食の嗜好に関わらず食べられる餃子に“東京”と冠した想いのひとつには、
300年以上前の東京で暮らした亡命外国人、朱舜水が伝えた餃子への敬意が込められています。

日本で「餃子」初めて登場する文献の該当ページ

日本で「餃子」初めて登場する文献の該当ページ
(朱氏談綺,国文学研究資料館 鵜飼文庫,
新日本古典籍総合データベース)



参考文献: 

椙下晴子:“包む”は深い! 教える人・萩野恭子 ユーラシア大陸料理研究家,技あり!dancyu ギョーザ,pp.92-101(2019).

瀬川慧:元気餃子は台湾にあり! 案内人&教える人・後藤ウィニー 料理研究家,技あり!dancyu ギョーザ,pp.61-85(2019).

板倉環:餃子の原型はウイグルにあり“2000年前餃子”作ってみる? 監修・シャウウェィ 中国料理研究家,

餃子の教科書 日本一旨い餃子の作り方と今知りたいディープ知識。,pp.78-79(2016).

池滝和秀:イスラエルで見つけた日本の食堂の味 世界に広がった餃子の奥深さ,The Asahi Shimbun GLOBE+,入手先〈https://globe.asahi.com/article/13509002〉(参照2020-07-15).

パラダイス山本:読む餃子,pp.233-235,新潮社(2011).

クック井上:ブラジル料理「パステウ」がうまい! ブラジルの揚げ餃子とシュラスコを楽しむ浅草『キボン』,dressing,入手先〈https://www.gnavi.co.jp/dressing/article/20211/〉(参照2020-07-15).

楊東来:冬至吃餃子的傳說,河南民間故事集,遠流出版(1989).

張仲景:傷寒論 玉峯蔵板,名古屋大学医学部資料室 近代医療黎明デジタルアーカイブ,入手先〈https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medlib/history/archive/print/1816cho.html〉(参照2020-07-15).

大塚秀明:日中餃子文化研究:日本食に融合した中国料理とその歴史的背景,FOOD CULTURE No.27,pp.12-13,キッコーマン国際食文化研究センター(2017).

人見懋斎他編:朱氏談綺(別名『舜水朱氏談綺』),国文学研究資料館 鵜飼文庫 新日本古典籍総合データベース,

入手先〈http://codh.rois.ac.jp/pmjt/book/200017278/〉(参照2020-07-21).

コレクション探訪 <ブロック3> 色とかたちを写す『舜水朱氏談綺』,印刷博物館,

入手先〈https://www.printing-museum.org/collection/looking/detail.html?mode=detail&number=74831&syear=1705〉(参照2020-07-21).

殷晴,周璐蓉:日本における餃子の伝来と受容,ぎんなん(特別号),pp.20-35,

入手先〈 http://www.l.u-tokyo.ac.jp/nihongo/ginnan-tokubetu.pdf 〉(2018).